同じ暖房器具だけど、薪ストーブはエアコンや床暖房などの電気製品とは明らかに違う。
エアコンや床暖房などの電気製品は、スイッチを押すだけで問題なく稼働する。電気という強力な動力源があるので、多少無理な配管経路でも動いてしまう。
しかし、薪ストーブの場合は、極めて弱い煙突のドラフト(上昇気流)を利用しているだけなので、合理的な配管(煙突)経路だとしても、スイッチを押すだけというわけにはいかない。焚きつけ時には、それなりの技術もいるし、手間も時間もかかる。まして、煙突がシングル煙突になっていたり、折り曲げ箇所が多いなどの非合理的な設計になっていると、煙が逆流して部屋の中が煙モクモクになって閉口してしまうことになる。

典型的な室内側シングル煙突で、なおかつ上部のネジを外さないと煙突が動かない積み上げ方式での施工
一般的な住宅設備の配管は、電線、冷媒、水道の配管でも、住宅の都合に合わせて多少曲げても正常に流れてしまう。そのため設計士や工務店は、「住宅設備の配管は家に合わせて折り曲げればいい」という発想になっていることが多い。しかし、煙突は折り曲げる度に排気抵抗になって、正常な燃焼を阻害していく。一般的な住宅設備のように「家に設備を合わせる」のではなく、薪ストーブの場合は「設備に家を合わせる」必要も出てくる。
最近では薪ストーブ本体が60万円、煙突が60万円、施工代が20万円で、トータルの薪ストーブ施工費が140万円程度になることが一般的だ。その他に、チムニー作成、炉台、炉壁、外気導入などの建築工事で、薪ストーブがなければかからない費用も発生するので、トータルで200万円程度予算を見ておかないとならないケースも多い。(リフォームの場合は足場代も別途必要)
数百万円のシステムキッチン、あるいは車などの高額製品の購入の際は、メーカーのショールームを見に行ったり、試乗、体験したりして自分の納得のいく品物を選択する人もいると思う。もちろん、実際の製品を見ないで(触れないで)カタログやネットの情報だけで決める人もいるだろう。いずれにしても、自分でそれなりに吟味して、選択する人がほとんどだと思う。
薪ストーブは、トータルで200万円程度の贅沢で趣味性の高い品なのに、薪ストーブにそれほど詳しくもなく、薪ストーブに対する愛情を全く持ってない設計士や工務店に、選定や仕様を丸投げしてしまうのは、かなりリスクが高いと言わざるを得ない。ある程度、施主さん自ら勉強するか、勉強しないならば、薪ストーブの知識を持ち、薪ストーブ愛のある薪ストーブ屋を入れて、設計段階から関わらせて、任せる方が幸せになれる。
薪ストーブは、一般的ではなく、設計士や工務店にとっては異質でかなり特殊な住宅設備なので、発想を根本的に変える必要がある。快適な暮らしができる薪ストーブのある家を建てたい場合には、「まず薪ストーブをどこにつけられるか」「どこなら最適な煙突プランになるか」という視点で設計していく必要がある。それを後回しにして、間取りを先に作ってから薪ストーブのプランを考えると、部屋の隅に追いやられて、無理な煙突経路になってくる。設計士や工務店に丸投げすると、そのような設計になりがちだ。
設計段階から、施主さんに対するコンサルができる、工務店や設計事務所の下請けではない独立した立場の薪ストーブ屋に、設計プランをチェックさせるのが良い。工務店や設計事務所の下請けの薪ストーブ屋だと、案として出てきた薪ストーブの設計が稚拙だとしても、それに異論を出さず、言われるがままに施工することになる。第三者的な目で見ても合理的な設計になっているかのセカンドオピニオンを得るためにも、施主さんが薪ストーブ工事を建築工事と分離発注して、自分の主治医的なお抱えの薪ストーブ屋を入れるのが良いと思う。
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