カナダ製のエクセル煙突に触れる機会がありましたので詳細にレポートします。
excel煙突外観・加工精度レポート
今回詳しく見ることが出来たのは「二重煙突」です。
まず全体を見渡して気がつくのが、国産二重煙突と比べて明らかに低い加工精度です。
致命的な欠陥「露出する断熱材」
まず、本来外部に出てはいけない断熱材がこのように断面に露出しています。
見たところ使用されている断熱材は「ロックウール」だと思われます。
素材の性質を考えますとそれなりの「耐熱性」と「断熱性」は担保されているようです。
しかし私が一番問題と感じたのは、この写真のように断熱材がインナー管とアウター管の間から「露出してしまっている」ことです。
露出した部分に水分が染み込むと断熱材の劣化は避けられず、断熱材が劣化すると二重断熱煙突を設置した意味はなくなってしまうのです。
日本の過酷な環境には長期間耐えられない
Excel煙突が生産されているカナダの気候ではこれで問題ないのかもしれません。
しかし高温多湿で雨が多い日本の環境は違います。
オフシーズンの高温多湿時に湿気を吸っていったり、継ぎ目や煙突同士を固定したビス穴に出来た隙間から雨が染み込んでいくことは避けられないことです。
3-5年程度の使用では問題ないと思いますが、10-15年レベルで考えた時にはどうでしょう。
染み込んだ水による断熱性能の低下、更には断熱材そのものがボロボロになっていくのは避けられないと思います。
加工精度の低さ
二重管上部の様子です。
同じく二重管の中部。
そして二重管の下部です。
如何でしょうか。
溶接そのものがシームレスではありませんので段差がはっきりしています。
また、当然溶接跡も綺麗なものとは言えません。
このことから、
- スポットで要所要所を接合して
- その後で他の部分を溶接していっている
という作業が容易に想像できます。
色は素材のままで塗装品はない
ステンレス部分は素材そのままの銀色のみで、黒の塗装品は用意されていません。
「どうせ塗装しても剥げ落ちてしまうし、長期に渡って剥げない塗料は存在しない」
というのが理由のようです。
もちろん煙突は「屋根上」や「壁面」など屋外の目につきにくい場所に設置しますので、「見た目の美しさや仕上げにはこだわらない」という割り切りもアリだと思います。
excel煙突設置作業レポート
実際に作業をしたレポートです。
ここでもまず感じるのが「製品精度の低さ」です。
煙突同士の接続はビスを貫通させて固定するのですが、まずふたつのビス穴がぴったり合いません。
写真の丸で囲った部分です。
拡大します。
なんとか穴を重ねようとずらし、一番重なったのがこの写真です。
ご覧になっておわかりのように、この状態ですと無理やりビスをねじ込んでいくしかありません。
excel煙突には「ダマシダマシ組み立てる」というテクニックが要求されます。
施工の作業効率はかなり悪い
「細かいところにこだわらないアバウトな外国人が手作業で作った」
という印象を製品の随所から感じます。
精度の悪さを施工時の工夫で補う必要があります。
excel煙突の施工手順
このようにムリヤリ煙突を繋いでいきますので、現場での施工性は極めて悪くなります。
- 一人が煙突を落ちないように保持して
- もう一人がビスを打ち込む
基本はこのスタイルしかありません。
当然二人で作業しないとかなり厳しいものがあります。
さらにその二人も息が合ってないといけません。
支える人が手ブレして煙突の垂直をキープできなくなるとビス穴がズレるどころか穴がまったく見えなくなってしまうのです。
作業の危険度も上がる
煙突設置は足場が悪い高所で作業します。
この不安定な場所で二人一組でする設置作業は、思っている以上に大変です。
この作業を一人で、となるとさらに大変で、人の代わりに下から煙突を保持する何らかの治具やジャッキなどが必要になってきます。
以上ご説明したとおり、カナダ製のエクセル煙突の施工にはそれなりの覚悟と対策が必要です。
耐久性にも疑問
そして苦労して繫げた煙突同志の接合部分もまた問題です。
屋外に突き出した煙突部分を考えてみましょう。
雨が降った時、雨水は煙突表面を上から下へ流れていくだけではありません。
風が吹けば雨水は下から上に上がっていきます。
また、毛細管現象でも隙間から内部に水は浸入していくのです。
そして煙突内に侵入した雨水の行先にスポンジのような断熱材が待ち構えているわけです。
これが好ましからざる結果を引き起こすことは容易に想像がつくでしょう。
このようなエクセル煙突へのトラブル対策としてまず考えられるのは、接合部分のスキマやビス穴をコーキングで塞いでしまうことです。
ただ、排出される高熱の煙や紫外線にさらされる過酷な状況で、10年20年レベルの長期に渡りコーキングの防水性能が維持されるとはとても考えられません。
また、煙突が壁を貫通している場合ではすべての接合部へ厳密にコーキング処理する必要があります。
当然目に見えない裏側の部分もありますので、現実的にすべてをコーキング処理するのは難しいと思います。
excel煙突最大の弱点「煙突トップ」
そして最大の弱点は煙突トップ部分です。
先述したとおり断熱材が露出している煙突断面に・・・
このようにトップを乗せます。
煙突トップの大きな隙間から吹き込んだ雨は剥き出しの断熱材へダイレクトに染み込むでしょう。
また、激しい風雨の際にはトップ下面と煙突の上部の継ぎ目から雨水がジャブジャブ注ぎ込むのも避けられないでしょう。
メンテナンスも容易でない煙突トップ
また、実際のメンテナンス作業でもこの煙突トップは曲者でした。
トップのフタがネジで固定されているのですが、長期間風雨にさらされますとネジがサビつき固着するのです。
これではフタを取り外すことが出来ません。
当然、トップを煙突に固定するため横から打っているネジも同様にサビ付き固着します。
また、ネジが馬鹿になって動かない場合もあります。
つまり、トップのフタが外せなくなり、トップ自体も煙突から外せなくなるので煙突掃除ができなくなるのです。
ですので煙突掃除をするためには一段下の煙突を外したり、
- 固着したビス固定部分を破壊してトップを取り外す
- 煙突掃除する
- トップを元に戻し針金で固定する
作業が必要でした。
断熱材も水分でボロボロに
そして作業中に断面の断熱材を見たのですが、ボロボロに風化して断熱材そのものがダメになっているケースが多くありました。
これらの作業経験より、エクセル煙突は
「最初の数年は問題なくても10-15年程度の使用には耐えない品質である」
と結論しました。
カナダではこれで問題ないのかもしれませんが、日本の厳しい気候風土では厳しいと感じます。
excel煙突を日本で安心して使用する唯一の方法
そんなエクセル煙突を日本で安心して使用するための方法が、「チムニー」+「角トップ」での施工です。
この方法ですと、風雨に弱いエクセル煙突を角トップとチムニー内に入れ「外」と断絶できます。
確かに角トップは高価ですし、チムニーの製作コストもかかります。
当然フラッシング施工に比べれば時間も費用もかかりますが、設置後発生するトラブルを解決するための時間と費用を考えますと、この部分に最初にかかるコストは省くべきではないと私は思います。
カナダ製フラッシングは耐久性がないガルバ製
別の施工、例えば「チムニー」+「角フラッシング」で施工されますと、上記したように煙突最上段の断熱材断面が風雨にさらされてしまいます。
フラッシング材に関しましても、カナダ製のフラッシングは安価ですがガルバです。
ですので煙突から舞い散る酸性の煤や垂れたタールに長期間晒されると耐えられないでしょう。
錆びて穴が開くのは時間の問題です。
そして実際そういう現場も経験しています。
雨仕舞いのパーツまでオールカナダ製でいく場合には、煙突掃除の際に必ず自分で点検して、問題がありそうだったら新品交換すると割り切っておきましょう。
(※コマメに塗装してなるべく寿命を延ばすなども有効だと思います)
一方国産二重断熱煙突の場合は、断熱材が完全にインナー管、アウター管、カプラー部分で密閉されているので、トップや接合部分が外気にさらされても安心です。
室内用の中空二重煙突
エクセル製室内用の中空二重煙突は『ウルトラブラック』という商品名で黒く塗装されています。
内径が150ミリ、外径が170ミリ程度なのでパッと見たところシングル煙突のようです。
二重断熱煙突のエクセル煙突とは専用のアダプターを介して繋がるようになっています。
中空部分の空気層がホンマ製の25ミリに比べて狭く、10ミリほどしかありません。
さすがに室内用は溶接跡が目立たちません。
これが中空部分に挿さり、やはりビスで固定していきます。
さすがに室内用の方は溶接跡も目立たず、それなりに綺麗な仕上がりです。
基本的にハメ込んでビスで打って固定していくのがエクセル煙突の施工手順です。
ホンマの空気断熱煙突との比較
ウルトラブラックのポイントは内側の煙突と外側の煙突の間に空気層が10ミリ程度しかないことです。
ホンマ製は25ミリありますが、10ミリは逆に空気断熱が強力に効いているように思います。
つまり空気層もそれなりに熱くることによる
- 保温効果
- 断熱効果
が働くのでしょう。
ホンマ製は空気層が厚すぎて逆にインナー管が冷めてしまうのだと思われます。
いくら上手に焚いてもホンマの中空二重煙突はそれなりに煤がついてしまうのです。
「10ミリ程度の空気層ならばシングル煙突と変らないのでは?」
と思われる方も多いでしょう。
実際に薪ストーブから比較的近い部分を一瞬手で触ってみみましたがヤケドしない程度の断熱性能は確保されていました。
これがシングル煙突ですと一瞬でも触ればヤケドします。
海外製の煙突と、国産煙突の比較
以上カナダ製のエクセル煙突のレポートをお送りしました。
今回の事例は日本で比較的容易に入手可能で薪ストーブ店で多く使われているカプラー式のイギリス製、中国製などの二重断熱煙突にもあてはまります。
これらの煙突もエクセル煙突と同様に断熱材が外気と接していたり、接していないタイプでも精度の悪い溶接跡から内部に水が染み込む事例が多く見られます。
設置後のメンテナンスコスト、修理コスト、取り換えコストを考慮しますと、やはり日本の風土に合わせて設計された国産の煙突を最初から利用するのがベストだと思います。
トータルで費やす費用や時間、得られる快適度がまるで違ってくると思います。
高木工業の国産煙突は過酷な日本の環境に長期間耐えうる設計で30年の歴史があり、安心して使うことができます。
ホンマは中国製です。
高木工業の煙突はメトスやトコナメエプコスで販売されています。
今回ご説明したとおり、導入時のコスト優先で海外製の煙突を採用する場合にはそれなりの対策を講じるか、長期は持たないという割り切りが必要です。
また、雨漏りやドラフト不足など不具合のある煙突を日々使い続けるのはストレスが溜まるものです。
最初の煙突は将来を見越して長期的な視野で考えましょう。
煙突は施工されてしまうとただの筒に見えてしまい、品質や性能の違いが判りにくいものです。
特に耐久性や精度の違いはあまり議論されません。
しかし煙突の違いにより生じる性能の差、燃焼効率の差は薪ストーブのそれよりずっと大きいのです。
「二重断熱煙突なんてみんな同じ」
なんてとんでもありません。
薪ストーブ本来の性能が発揮できるかどうかは繋がっている煙突の性能に大きく左右されます。
薪ストーブ本来の性能を維持し快適な薪ストーブライフを長年に渡って楽しむために、煙突にこそもっともっと目を向けて頂きたいと切に願います。
参考