使っているうちにドブレ700SLのフロント扉のピンが浮いてくるというのは、今にはじまったことではない。もう10年以上前から、そういう問題があったようだ。
少しづつなので、あまり気づかないけど、何ヶ月も放置すると、いずれ扉が外れてしまうことになる。気づかないで使っていて「燃焼中に薪の投入時に扉が外れた」みたない話も良く聞くけど、けっこう焦るだろう。
上部のヒンジ
下部のヒンジ/久々にチェックしたら外れる寸前だった
最近のロットは一応、芋ネジでピンを固定する対策がされているけど、正直言えば、芋ネジでピンを押した程度では、開閉のために滑ってしまうので、効き目はあまりない。Eリングとか差込みの割りピンなどで物理的に浮かないような対策でないと「焼け石に水」という感じだろう。
ユーザーとしては、コマメに点検して気づいたら押し込むというのが無難だ。バールやハンマーなどを用意しなくたって、付属の空気調整用のレバーを上手くつかえばテコにして、上部のピンは簡単に押し込めるし、下部に関しては軽く叩き込んでやるだけだ。焚きつけの前にガラスを拭くくらいのタイミングでたまに点検して気づいたら修正してやれば大きな問題にはならない。
そもそも、何でピンが浮いてくるのだろうか?答えは簡単で、扉の建て付け調整をきちんとされてないからだ。完璧に扉が垂直に取り付けられていて、扉が厳密に水平方向に開閉されれば、理論的には浮いてこないはずだ。しかし、微妙なずれがあるし、そもそも薪ストーブが設置されている炉台そのものだって厳密に言えば水平になってないわけで、完璧な水平垂直を要求するのはけっこう難しいものなのだ。そういうわけで、開閉を数多く繰り返すと、ピンが浮いてくる。
「何か根本的な対策をして、少しでもピンの浮きを少なくしたい」という場合に、ドブレ700SLの場合は、扉の建て付け調整をすることも可能だ。しかし、これはかなり上級者向けのテクニックで、下手にやるとかえって酷くなったり、きちんと扉が開閉しなくなってしまうという大きなリスクもある。誰にでもお勧めできることではないことをあらかじめお伝えしておく。
サイドローディング扉を開くと、フロント扉のヒンジ部分を本体鋳物に固定するためのベースのパーツが出てくる
上下の13ミリの六角ボルトを緩める
上下の13ミリの六角ボルト付近にマイナスの芋ネジがあり、これの締め込み加減で正面から見た時の傾きと垂直性、建て付け位置を決定する(13ミリの六角ボルトを緩めた状態でないと調整不可)
下部の13ミリの六角ボルトを緩めると、上部のボルト位置を支点として、横方向から見た時に左右に自由自在にヒンジの取り付けベースのパーツが動くようになる。これによって横方向から見た時の垂直性の調整をする。
上に説明したように、芋ネジ2本、下部の13ミリの六角ボルトを緩めてのベースの傾き調整で三次元的に、扉の建て付け調整ができるようになる。これは言うのは簡単だけど、実際には非常に高度で精密な作業なので、下手にやるとかえって悪化するだろう。やるからには完璧にやらないと意味がない。測定器や治具があるわけではなく、手作業による勘とセンスが要求される職人技の領域だ。
下手にやると、ピンの浮きがもっと酷くなるというだけでなく、ガスケットがきちんと本体に密着しなくなったり、ガラスが変なところに当たって衝撃が加わって割れたりすることもある。それだけの覚悟をもって慎重に行おう。言うまでもないが、自己責任だ。この記事を読んで実行した結果、万一、不具合が発生しても責任は一切取れません。
コツとしては以下のような点だ。
・13ミリの六角ボルトは決して外さないで、ベースが自由に動く程度に緩めるだけにする
・芋ネジは13ミリの六角ボルトを緩めたら、一度、どれだけ出ていたかを確認した上で取り外して内部を観察する
・13ミリの六角ボルトを緩めた状態でないと、芋ネジの調整は効かないし緩めただけでは意味がない心得る
・テスト開閉の際にガラスや扉が、本体鋳物に当たって引っかる感じがあれば、建て付けは大幅にずれている
・最終的に調整を追い込んでいった時に、フロント扉を完全に閉めた状態で調整するのではなく、ハンドルレバーが引っかかって30°程度浮いている状態で行う
・その際に、フロント扉を完全に閉める前にガスケットが本体鋳物に当たっている感触を感じることができるか確認
・最後に13ミリの六角ボルトを締め付ける時に上下均等に力が入るように一気に片方だけを締め付けない
また、扉の建て付け町制をして完璧に垂直、水平になったと思っても、ピンがすぐに浮いてくる場合もある。完璧に垂直、水平にした場合に、ガスケットがきちんと密着しなかったりする場合もある。これはガスケットのヘタリ具合も絡んでくるからで、新品の時、ある程度使い込んでガスケットが潰れている状態でも、理想的な扉の位置が違うからだ。つまり、経年で状態は変化するものなので、どこか一箇所での正解、半永久的にそれが続くということではないのが現実だ。
建て付け調整の際に一番気をつけなければいけないのは、扉の垂直水平に拘るあまり、ガスケットの密着性が損なわれることだ。建て付け調整してみると解ることだけど、垂直水平を優先すると、扉のガスケットが本体鋳物にくっつかないで、いきなり鋳物同士がガツンと当たるような感触になる。こうなると、扉の開閉時の衝撃がガラスに伝わり、ガラスが割れやすくなる。
最近、700SLのガラスが、上部のガラスの固定金具のところから縦にひび割れるというケースが見受けられる。
ドブレ700SLの扉のピンが浮く問題、ガラスが割れる問題は、同じ原因で、扉の建て付け調整にあると思われる。
早めにガスケットを交換したり、ピンを押し込んでやれば、扉の建て付け調整をしなくても何とかなるけど、手を入れて極限まで追い込んでいきたい場合には、この記事を参考にして挑戦してみよう。