「触媒機は排気がクリーンで煤も煙も少ない」なんていう言葉が独り歩きしているけど、それは本当だろうか?
私は薪ストーブ店をやっているので、煙突掃除で触媒機、クリーンバーン機の両方とも数多く見ているけど、私の経験では触媒機の方が煤の付着が明らかに多い。サンプル数が少ないなんて言わせない。これは自分の経験から明確に断言できることだ。触媒機の煙突の煤がドサっとどんぶり一杯、クリーンバーン機の煙突の煤がスプーン一杯なんてことはざらにある。(ちなみに昨日の煙突もクリーンバーン機のものだ)
煤や煙が少ないとかいうカタログスペックは、研究室で、新品の触媒を使って、理想的な状態で完璧に焚いた時だけのものだ。現実的には触媒は使えば痛んでくるし、そもそも完璧に焚けている人なんて、ほとんどいないのが現実だ。もちろん中にはいるだろうけど、多分、全ユーザーの1割にも満たない数だと思う。
なぜそのような現象が起きているのだろうか?触媒機のユーザーは触媒が魔法のフィルターと勘違いしていて、温度が上がっていないのに、ダンパーを閉めて空気を絞って煙モクモク状態で焚いているケースが多いのだと思う。燃費が良いことを重視していることからも、薪をケチってチビチビ焚いているチョロ焚きしたり、炭焼きしているケースも多いだろう。このような使い方をするユーザーが多いので、煤の大量付着が多く見られるのだ。
一方でクリーンバーン機のユーザーは、綺麗な炎を楽しむ傾向が強いので、きちんと温度を上げて煙の発生が少ない焚き方をしているケースが多いのだろう。
そもそも触媒機とクリーンバーン機のどちらが高性能なんて論じることがおかしいと思う。そもそも、薪ストーブの燃焼方式の違いなんて、大きな問題ではないのだ。それよりも乾燥した良質な薪を、上手に焚く方がはるかに排煙のクリーンさには大きな影響を与える。極論すれば、触媒機やクリーンバーン機ではない、普通のホームセンターで売っている中国製の安い鋳物製だって、ドラム缶だって(煙突さえ良ければ)、煙も煤もそれほど出ないで焚くことができる。
車にたとえて、解りやすい話をしよう。
■アメリカ製のスポーツカー、シボレーコルベット■
(6..2L V8エンジン 最大出力436PS/最大トルク58.6kg・m/重量1520kg)
■ドイツ製のスポーツカー、BMW M3■
(4L V8エンジン 最大出力420PS/最大トルク40.8kg・m/重量1650kg)
この二台のどっちが早いの?どっちが高性能なの?っていう問題と薪ストーブの触媒、クリーンバーン対決は似ているのだ。アメ車の方は最大出力も最大トルクも大きいし、重量も軽いから、アメ車の方が早いし高性能なのだろうか?カタログスペックだけ比較したらそうなるけど、はたして本当?
サーキットで実際に走らせてみれば判ると思うけど、多分スペックでは劣るヨーロッパ製の方が良いタイムを叩き出すだろう。もちろん、レーシングドライバーが良いタイヤを履いてという同じ前提条件でもそうだけど、私や、これを読んでいるあなたが走らせても同じ傾向だと思う。もちろん真っ直ぐな道をただアクセルを踏むだけのゼロヨンとかだったら、カタログスペックの良いアメリカ車が勝つだろうけど、現実の道は曲がりくねっているのだ。アクセルとブレーキを駆使しないと走れない。
そしてさらに現実的に山坂道での走行では、タイヤの磨耗度合いも違うし、ドライバーのテクニックも違う。タイヤの磨耗度合いが「薪の質」だ。そしてドライバーの運転テクニックが「焚き方」だ。車の違いなんてそれらで吹き飛ばしてしまうくらい大きく結果が違ってくる。いくら高性能の車でもツルツルのボーズタイヤではタイムは出ない。
乾燥不足の薪を焚いていたら煤だらけになるということだ。そしていくら高性能のスポーツカーでも免許取り立ての初心者やサンデードライバーでは、ビビってアクセルも踏めないだろう。薪を適切に組んで、必要な空気を送って炉内の温度を上げてやることができなければ、煙モクモク、煤が大量発生ということになる。
このように複合的に考えなければいけないので、触媒かクリーンバーンかという議論はナンセンスだ。もしどっちかが圧倒的に優れているのであれば、世の中の薪ストーブは全部それになってしまうはずだ。
最後にまとめると、薪ストーブの機種や燃焼方式の違いより、薪の質と焚き方(と煙突)の方がはるかに重要ということだ。だから、機種にこだわるより、煙突、薪、テクニックにこだわって、薪ストーブを楽しもう!自分の気に入った機種を使って、素直に楽しむのが一番だ。