最近の新築住宅は24時間換気が標準になっている。
第一種換気 → 吸気、換気ともに換気扇を使う(室内圧は外気と同じ)
第二種換気 → 吸気に換気扇を使う(室内圧は外気より高い正圧)
第三種換気 → 排気に換気扇を使う(室内圧は外気より低い負圧)
文字だとイメージが湧かないという人は以下のサイトにイラストと解説があるので、参照すると理解しやすいと思う。
一般的にはコストパフォーマンスの良い第三種換気が採用されるケースが多い。実は第三種換気は薪ストーブとあまり相性が良くない。
この時に薪ストーブの焚きつけを行うと、煙は煙突に向かって抜けていかずに、第三種換気の24時間換気の換気扇に向かって流れて部屋の中が煙だらけになる。
その他に住宅には、24時間換気の第三種換気の換気扇だけでなく、台所のコンロ上部にも料理用のさらに強力な換気扇もある。こちらを稼働させると、台所の換気扇も薪ストーブの煙を引っ張ってしまう。
換気扇に薪ストーブの煙が引っ張られて、家の中が煙だらけになってしまったというユーザーも多いと思う。
これを防ぐためには、薪ストーブの焚きつけの際に、換気量の大きな台所の換気扇を使わない、可能であれば24時間換気の換気扇を切る、薪ストーブ周辺の窓を開いて室内の気圧と、屋外の気圧差をなくすという対策をすれば、薪ストーブの煙は、煙突に向かって抜けていく。一度煙突に煙が抜けていって、薪ストーブが安定燃焼すれば、煙突内に強いドラフト(上昇気流)が発生して、台所の換気扇や、24時間換気の換気扇を回しても問題はない。
24時間換気の計画換気は、室内の居室の空気を1時間に0.5回入れ替える能力を求められる。つまり、2時間に1回は室内の空気が全部入れ替わるだけの換気能力が設定されている。仮に100平米の床面積の平屋で天井高が2400と考えると、室内の空気の容積は240立米。その半分の120立米の空気を1時間で引っ張り出しているわけだ。二階建ての場合はこの2倍の240立米ということになる。
そして台所の換気扇の換気量はどの位だろう。換気扇の能力にもよるが600-900立米/時程度の排気量だ。
薪ストーブの煙突は内径150ミリ、外径200ミリの二重断熱煙突が一般的だ。つまり内径の150ミリの断面の円の中を、どれだけの排煙速度で煙が抜けていくのかで計算すれば、排煙量が推測できる。
Q :煙突効果による給気速度, [m3・s-1]
A :煙突の断面積[注 3], [m2]
C :流量係数 (通常0.65 – 0.7)
g :重力加速度 [9.80665 m・s-2]
h :煙突の高さ, [m]
To : 外気の絶対温度, [K]
Ti : 煙突内平均温度, [K]
薪ストーブの排煙量は、薪ストーブの燃焼の各段階において全然違う。多分、一番少ない時と、多い時は100倍以上違うのではないだろうか?
流量計で正確に測定してみたら、面白いと思ってキーエンスに問い合わせると、既製品の流量計は、まず価格が30-100万円程度と高額過ぎて個人で購入するのは難しい。さらにコンプレッサーの送り出しのエアーの流速の測定が主な用途で、排煙には対応していないらしい。0.4MPaという大気圧の4倍程度の気体の押し圧が必要、かつ、流体の温度が60℃までとのことで、既製品で、煙突の排気速度を計測するのは無理だった。
2.ある程度炎が回ってきて、消える心配がなくなった状態
3.中割りを追加して、フルパワーでガンガン焚いて本体温度を上げている状態
4.炉内温度がしっかり上がって、燃焼用の空気を絞って、二次燃焼で安定して定格状態で燃えている段階
5.薪が燃え尽きて、熾火となっている状態
https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/17839/p055.pdf
私は自分で薪ストーブの二重断熱煙突で測定したわけではないし、全く根拠はないが、とりあえず、上記の3のフルパワーの一番、薪ストーブの使用での排煙量の多い時において、煙突内を秒速1メートルの速度で煙が立ち上がっていくと仮定してみる。
まずは単位をメートルに揃えて、煙突の断面積を平米数で計算する。
75mm=0.075m
0.075×0.075×3.14=0.018m^2
毎秒の排煙量は以下の通り
0.018×1=0.018m^3
1時間は3600秒なので、0.018×3600=63.6m^3
しかし、薪ストーブは安定燃焼して定格運転している時ばかりでないことは、誰しも理解できると思う。焚きつけ時は定格時の1/10以下の排煙量だと推測できる。焚きつけ段階では0.6立米/時以下の排煙量と考えてみよう。
そうすると、以下のように、最小と最大で100倍程度の排煙量というところが、私が持っている感覚だ。もし気体の流量計で、排煙量を実測できたとしたら、大きくは、この数字を外してはいないだろうと思うが、どうだろう?いつか機会があれば、測定してみたい。微差圧計とピトー管の組み合わせで測定できるかもしれない。
フルパワーで立ち上げ時 60立米/時
安定燃焼時 6立米/時
ヒミエルストーブで吸気量(not 排煙量)を実測したレポート(焚きつけ時23立米/時、安定燃焼時14立米/時)
薪ストーブの排煙量の数字が具体的になってきたところで、先ほどの換気扇の排気量と比べてみよう。
台所の換気扇が600-900立米/時
このような数字がなくても、「焚きつけの時は換気扇を使わない」「煙が室内側に逆流する時には窓を開いて室内と屋外の気圧差を解消させる」ということを知っているだけで、実際の薪ストーブの使用は困らないけど、 薪ストーブの排煙量(煙突の持つ上昇気流、ドラフト)と比較して「桁違い」のパワーを換気扇が持っていることが数字の上からも理解できると思う。これだけのパワー差があるのだから、煙突ではなく換気扇に向かって、薪ストーブの煙が流れていくのも納得できると思う。
ここで、もう一つ重要な問題がある。まだ、上記の薪ストーブの使用段階1においての、焚きつけ時に薪ストーブの煙が換気扇に向かって逆流する問題はマシな方だ。煙だから見えるし臭いので、室内にいる人は、窓を開けるなり、換気扇を止めるなどの対策を取ることができる。もっとリスクが高いのは、上記の薪ストーブの燃焼段階の5における時だ。熾火、つまり炭が燃えている状態なので、目に見えず無臭の一酸化炭素が発生している。熾火の温度が高く適切なドラフトが維持されている時には、一酸化炭素は煙突へと抜けていってくれるが、排気温度が下がりドラフトが弱くなってくると、薪ストーブや煙突の隙間から、換気扇に向かって一酸化炭素が流れる可能性もある。たいていはこの段階は就寝時で人が起きていないので、対策を取りにくい。
これを防ぐためには、一酸化炭素警報器を薪ストーブ周辺に設置することも有効だけど、それよりも重要なのは根本的にこの問題を起こさないように、第三種換気のための空気の流入の開口面積を適切に設定して、室内を負圧にし過ぎないことだ。パイプファンの直径と同じ数だけの開口面積を設定しておけば良いと安易に考えると、新築のうちは問題ないかもしれないけど、長年の入居後に外気導入のダクトのフィルターが埃で目詰まりして、換気扇が引っ張り出すのと同じだけの空気を屋外から取り込めなくなる。そうなると、室内の負圧が強くなって、悪い条件が重なると一酸化炭素が薪ストーブから24時間換気の換気扇に向かって流出することも考えられる。
このように、高気密高断熱住宅に薪ストーブを設置する場合は、計画換気も含めて設計段階から、配慮しておくことが極めて重要だ。設計士、工務店、ハウスメーカーなども薪ストーブに関して熟知していないと、導入後色々と問題が発生する可能性が高い。薪ストーブからアルミフレキダクトで外気導入を直接接続すれば、室内がどんなに負圧になっていてもOKというような大きな誤解をしているところもあるので要注意だ。(これについては言及すると長くなるので、また別の記事でまとめようと思う)
そもそも薪ストーブが不要なほど高性能の、高気密高断熱住宅に携わっているのだから「薪ストーブは、そもそも不要」という考えが施工側の業者には染みついている可能性も高い。それに対して施主さんが「薪ストーブを、どうしても導入したい」という場合には、それなりの意思の強さ、理論武装、説得力も必要となってくるケースもあると思う。薪ストーブ屋としては、施主さんの希望を実現して、快適かつ安心、安全な薪ストーブライフのお手伝いをさせていただくので、なるべく設計の早い段階で相談して欲しい。
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コメント
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石田正人さま;
ブログの記事の情報が役立ったようで良かったです。
就寝時の熾火になってからの一酸化炭素の室内への流出リスクの低減ですが、寝る時だけ24時間換気扇を止めて、吸気口を開けておくのは極めて有効だと思います。
冬の間ずっと換気扇を止めるのはやりすぎだと思います。焚き付け時と就寝時だけにとどめておいた方が良いと思います。
記事にも書きましたが、薪ストーブの煙突からの排煙量と、24時間換気の風量は桁違いですので、薪ストーブの排煙だけでは、室内の空気の入れ替えの容量は期待できません。
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石田正人さま
こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたします