今回ヒミエルストーブで行った、シングル煙突と二重断熱煙突での燃焼比較テストの結果から考察したことや感想を述べる。
「立ち上がり速度」「安定燃焼時の薪の消費量」そして「薪の投入を止めた後の温度低下」の、いずれの3つのフェーズにおいても【2倍】という非常に解りやすい、とらえやすい違いの実験データが得られた。
これまで、シングル煙突から二重断熱煙突へ入れ替えた工事を数多く行ってきて、焚きつけ直後からお客様が「これまでとは全然違う」と感動していたことに立ち会ってきた。ユーザーが明らかに体感できるレベル差というのは1.2倍とかのわずかなレベルではなく、かなり大きく2倍だったのだということだ。
「立ち上げ時」においては二重断熱煙突の場合は排気温度が高いので、明らかにドラフトが強い。そのため炎の勢いも目視確認できるくらいに違う。シングル煙突での燃焼時はかなりまどろっこしいという印象だ。排気温度については、シングル煙突で安定燃焼に達する時が75℃程度なのに対して、二重断熱煙突の場合は150℃程度だった。こちらの数字も2倍になっているというところも興味深いところだ。
今回の実験においては、一台の薪ストーブしかなかったので、煙突を差し替えての、薪ストーブ本体を温度低下させてからの日を改めての複数日でのテストとなったけど、二台の同じ薪ストーブを用意することができれば、同時に燃やして、炎の育つ様子を動画で撮影して、早送りに編集すれば非常に解りやすくインパクトのある面白い動画となったと思う。
「安定燃焼時」においては、二重断熱煙突の場合は、空気を絞ってゆっくりと燃焼させることが可能となる。一方シングル煙突の場合は空気を絞ってしまうと、とたんに安定燃焼しなくなり、煙モクモク、ガラスが煤ける不完全燃焼となってしまう。そのため安定燃焼時でも空気を絞ることができない。常に全開で燃やし続ける必要がある。昔のだるまストーブや、焼却炉系、あるいは時計型などのように空気全開のフルパワーで常時ガンガン燃やすストーブとシングル煙突の相性は良いが、最近の、高性能なエコデザインの薪ストーブとシングル煙突の相性は良くないと言わざるを得ない。
煙突内の負圧の数字や空気流入速度を比較してみると明らかで、下記の通りで使用している空気の量が全然違い、二重断熱煙突によって排気温度が高く維持されている効果が明らかに見て取れる。
シングル煙突の場合の負圧は14Pa程度、流入速度1m/s程度
二重断熱煙突の場合の負圧は5-6Pa程度、流入速度0.7m/s程度
いつまでも煙をモクモクと出し続けるような薪ストーブの運用方法は、本来の薪の持つエネルギーを煙として捨てていることと同義であり極めて損であるし、環境的にも良くない。薪ストーブユーザーモラルとしては最悪となりうる。世界的な環境問題においても排気ガス軽減は今や当たり前となっている。これらの意識を我々業界関係者が持たないでシングル煙突施工を続けることは自らのクビを締めかねず残念である。
また、メンテナンス時には、煤の付着量が全然違うので、煙突掃除の頻度、そして手間と労力、負担の差も無視できない。
「薪供給停止後の温度低下」については、二重断熱煙突は空気を絞ったままでも強いドラフトが維持したままの運用ができるので炉内の温度低下がゆっくりだ。一方のシングル煙突の場合は空気全開を維持しないと、正常に安定燃焼できなかったので、炉内の暖気も早く煙突から逃げてしまうという結果が出た。最終薪の投入後の、オーブン室が100℃までの低下時間が、シングル煙突で2時間、二重断熱煙突で4時間と、大きく差がついた。
ヒミエルストーブの公式ブログでは、私のブログでは出さなかったドラフト値の比較グラフとともに、西岡さんの見解を述べられているので、そちらも併せて参照いただくと、より一層理解が深まると思う。
【ロケット燃焼方式以外のクリーンバーン燃焼形式や触媒形式の薪ストーブではどうか?】
今回は煙突内の負圧が6Pa程度、使用空気量15立米/hで、ゆっくり燃焼させて運用できるロケット燃焼方式のヒミエルストーブでの実験を行ったけど、他の燃焼形式のクリーンバーン燃焼形式、または触媒燃焼方式の薪ストーブでのシングル煙突と二重断熱煙突の燃焼の違いも非常に興味深く、今後の課題とも言えよう。
ロケット燃焼方式だけでなく、クリーンバーン燃焼方式、触媒燃焼方式においても、同様のデータが取得できた場合には【薪ストーブにおいてシングル煙突よりも二重断熱煙突の方が良い】と、一般化して普遍的に述べることができるようになる。
ノルウェーの170年の歴史を誇る老舗の鋳物製薪ストーブメーカー「ヨツール」の代表的な機種の最新モデルF500 ECOを例に出そう。さすがに老舗だけあって、メーカーサイトのスペックも合理的で具体的な数字が出ている。これだけ具体的なデータを出しているメーカーは意外と少ないと思う。この機種では、12-15Pa程度のドラフト値を推奨している。(ちなみにヒミエルストーブの場合はその半分程度の6-7Pa程度で安定燃焼する設計)
ヨーロッパのエコデザインモデルの最新機種は、いずれも空気の流入量をかなり絞って燃やす設計となっていて、ヨツールF500 ECOの場合には22立米/h程度となっている。(今回のヒミエルストーブでの燃焼比較実験では、流入速度で記録したけど、計算すると1時間あたりの空気消費量も割り出せる。ヒミエルストーブの巡行時には、F500 ECOよりもさらに少ない15立米/h程度)
ロケット燃焼方式とクリーンバーン燃焼形式では、薪ストーブの特性が全然違うので、クリーンバーン燃焼形式の機種で、シングル煙突と二重断熱煙突の燃焼比較実験をした場合、今回の差より大きく出るのか、小さく出るのかも興味深いところだ。
ロケット燃焼方式よりもクリーンバーン燃焼形式の方が、煙突の負圧も強く、なおかつ、空気の流入量も多い設計になっているので、今回のヒミエルストーブでの実験結果と同じか、それよりも、さらに煙突の断熱性能の違いでの、「立ち上がり速度」や「安定燃焼時の薪の消費量」の数字の値に、大きく差が出るであろうことが推察される。
いずれ機会があれば、クリーンバーン燃焼形式や触媒燃焼形式でも、今回同様に、シングル煙突と二重断熱煙突での燃焼比較実験を行って、この推察がどうであるか検証してみたいと思った。
【今後の課題】
今回の実験は、薪ストーブを工場の大空間に設置している。実質的には解放空間でテストしてるのと同じだ。その設置状況において、単純に薪ストーブの温度と薪の消費量だけを計測している。
可能であれば、一般家庭の気密と断熱がそれなりに取れた、室内の閉鎖空間に設置して、室温のデータも同時に計測、取得できたら、さらに面白いと思う。
つまり、薪ストーブ本体の「立ち上がり速度」や「温度」の違いだけでなく、それらの値が、どれだけ室内の暖房に寄与しているのかの相関関係も知りたい。
そして「煙突からの放熱があるから室内が暖かくなるシングル煙突神話」の真偽を、室温測定も同時に行って検証してみたい。
もし、現在シングル煙突で使っているユーザーさんで、二重断熱煙突に入れ替えの工事をしたいと考えている人がいたら、施工前に一日、施工日に一日お時間をいただいて、室内温度の推移も含めた温度計測の比較実験にご協力いただけると幸いだ。
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