「薪ストーブ店に見学に行ったけど、ネスターマーティンは暖かくない・・・」
ネット上でたまに見かける意見です。
もちろん実際はそのようなことはありません。
なぜこういう感想が出るかといいますと、短時間だけ滞在する薪ストーブ店ではその薪ストーブが本来持っている性能はなかなか解らないからです。
といいますのも、お店ではお客さんが行く時間に合わせて直前に火を入れるケースが多いのです。
これは本体に充分な畜熱がなされる時間がないということです。
ですのでそのような印象を受けるのだと推察いたします。
薪ストーブの本来の性能というものは、半日から数日間焚き続けないと解らないものです。
つまり日中しか人がいないようなショールーム的なお店では、その機種本来の実力を感じることは難しいということになります。
また、ネスターマーティンの構造もそういう誤解を招く一因となっています。
ネスターマーティンは3重構造
ネスターマーティンは他の薪ストーブには見られない「三重構造」を採用しています。
上記イメージ図を御覧ください。
- 一番内側・・・鋳物パーツ(※耐火レンガではない)
- 真ん中・・・鉄板の箱
- 一番外側・・・鋳物
このような構造のため、炉内から一番外側の鋳物に熱が伝わるまで他の鋳物製薪ストーブよりも時間がかかるのです。
この特徴は
- 気密性に優れて
- 炎のコントロール性能が良く
- 燃費が良い
というネスターマーティンの長所にも繋がります。
「鋳物の外側のパーツ」の内側に「鉄板の箱」が包み込まれて、さらに「鋳物の炉内」という三重構造。
ネスターマーチンの気密性能は、鋳物を耐火セメントで固定しただけの他の薪ストーブとは段違いです。
そのメリットの裏返しとして、熱が外に伝わるのが遅くなるという性質があるのです。
この構造や性質を理解せず
「ネスターマーティンは暖かくない」
という評価をされているならば、それは誤った判断だと言えるでしょう。
ガンガン焚いて時間が経過すればしっかりと本体に畜熱されて充分に暖かくなります。
また、「暖まりにくい」という特徴は逆に「火が落ちてからも温度が下がりにくい」ということなのです。
カタログや販売店で
「燃焼温度の高くなりやすい針葉樹でも安心して焚ける」
と謳われているのは、この構造とも関係があります。
また、この構造のため、破損や故障に強いというメリットもあります。万一、過燃焼させてしまった場合でも炉の一番内側の鋳物パーツだけが変形するだけで、真ん中の鋼鈑の箱や、外装の鋳物パーツを保護してくれます。変形したパーツを交換するだけで修理できるのでローコストで済み、メンテナンス性にも極めて優れています。
ネスターマーティンは薪を直接燃やすのではなく、「一度薪から煙(ガス)を立ち上げて」「その煙(ガス)に”高温となった内側の鋳物の熱”と”上部からの二次燃焼用の空気の供給”で引火させて燃やす」という設計思想です。
つまり薪そのものが燃えるのではなく、薪は燃料を供給するガスタンクなのです。
タンクから出たガスが燃えるので極端な高温にならずに針葉樹を燃やせるということです。
また鉄板製の箱は外側の鋳物を高温から保護する役割も担っています。
もちろん他の鋳物製の薪ストーブでも、上手に使えば針葉樹を焚くこともできます。
その中でもネスターマーティンは上記した理由から、無理なく安心して針葉樹を焚けるということです。
では、“どの程度まで温度を上げれば良いのか”について説明いたします。
取扱説明書には「天板の温度が150-200℃位」と書いていますが、良好な燃焼をさせるにはガンガン焚いて200-250℃くらいまで上げた方が良いように思います。
天板の各部を計測し、ムラなく均一な温度になるように使うのがポイントです。
ストーブに慣れていない導入当初はマグネットで貼り付けるバイメタルの温度計の数字を信じないようにしましょう。
精度や個体差が大きいバイメタル温度計が指す数字はあくまで「目安」です。
正確な温度を計測するには放射温度計を利用します。
感覚が掴めないうちは放射温度計で天板各部の温度を測り「正確な温度」と「五感で感じる温度」を覚えましょう。
ドブレとネスターマーティンの違い
どちらもベルギー製の薪ストーブですが、両者の性格はかなり違います。
実際にショールームに設置していた「ネスターマーティンS33」と「ドブレ700SL」を比較してみます。
両機種とも高性能機種です。
ネスターマーティンはテクニックが必要
ネスターマーティンS33/S43/H33/H43/C33/C43/RH43/TQ33/TQH33は”ユラユラとゆっくりと燃える炎”が特徴です。
また、SシリーズとHシリーズに関しては「一次燃焼の調整機構」がありません。そのため「焚きつけ時」や「薪の追加投入時」には扉を微妙に開いて空気を送ってやるなどの、繊細で微妙なテクニックが要求されます。
一方ドブレの700SLは豪快でパワフルな燃焼能力を持ち扱いが簡単です。
両機種を比較するとネスターマーティンのほうがテクニックを要するマニアックな薪ストーブと言えるでしょう。
ネスターマーティンの美しいオーロラ炎には要注意
ここで1点注意事項です。
ネスターマーティンの特徴である「美しい炎」は温度が上がり安定燃焼モードに入ると現れます。
しかし、ネット上でよく見られる「ユラユラのお化けのようなオーロラ炎」にするのは要注意です。
一度、その状態で外に出て、煙突からの煙をチェックしてみましょう。
びっくりするくらい白い煙がモクモク出ているはずです。
これは薪が燻って不完全燃焼しているということです。
煙は本来熱になるはずの成分です。
それを煙突から捨てていますので燃費も良くありませんし煙突には煤が付着してしまいます。
「ユラユラのお化けのようなオーロラ炎」を作るには、「白い煙が出ない最小の空気で薪が完全燃焼するポイントを見つける」ことが必要なのです。
そして燃えている薪の太さ、乾燥状態、樹種によりこのポイントは常に違います。
「ダイヤルをこの数字に合わせればいい」という単純なものではありません。
慣れないうちは、コマメに外に出て「煙突から出る煙の状態」と「炎の状態」の相関関係を身につけましょう。
これまでに述べてきた特徴を理解し実践頂ければ、「就寝前の最後の薪の投入」から8時間後の翌朝でも炉内の灰の中には熾き火が残ります。
そして翌朝も残った熾き火からの再焚きつけが容易な状況になるのです。
このとき、薪ストーブの表面温度も触るとほんのりと温かいでしょう。
炉内に灰を多く溜めないようにしましょう
再焚きつけの場合には灰を適度に落としてやることが重要です。
あまり灰が溜まっていますと、空気の流れが悪くなってきちんと燃焼しなくなってしまいます。
この薪ストーブは熾き火を落とさず、灰だけを落とせる秀逸な灰落としの機構があるので、積極的に活用しましょう。
このように長時間燃焼させた後の使いこなし方法も、知っているのと知らないでは大きく差が出てきてしまいます。
このくらい溜まるまでに灰を取り除きましょう
この写真のように、薪止めの金属パーツの横の部分の下の空間が見えなくなったら明らかに多すぎます。
ネスターマーチンの場合、炉の上の方からエアカーテンとして吹き降ろしてきた二次燃焼用の空気がガラスを舐めるように降りてきて、薪止め金具の下から吹き降ろすような空気の流れで設計されています。
ですのでこの部分が灰で埋もれてしまいますと燃焼効率が落ちて、綺麗に燃えなくなってしまいます。
この機種に限らず、きちんとそのストーブの特徴と取り扱い方法を説明できる販売店というのも意外と少ないようです。
それはこれまで他社で薪ストーブを取り付けたお客様をフォローしてきた経験からわかったことです。
このストーブを使いこなせず煤だらけにしてしまっていたり、煙突を詰まらせているユーザーを多くサポートしてきました。
そのストーブを販売し設置した薪ストーブ店でも「スタッフが自宅で実際にその機種を使用していない限り」、まともな説明をユーザーにするのは厳しいのかもしれません。
それはお店で展示しているものを短時間触ったり、お客様宅でチョロっと焚いた程度では、そのストーブの奥深い勘所までは把握できないからです。
費用の安さだけで薪ストーブ店を選ぶと、こういう大事な部分が抜け落ちているケースが多いので注意しましょう。
ご自身が欲しい薪ストーブについて熟知しているスタッフのいる販売店を選ぶのが、快適な薪ストーブライフの第一歩です。